三日月の下、君に恋した
12.思ってたより



 専務は、まだ私のことを誤解してるんだ。

 菜生に向けられる冷たい目には、憎しみがこもっているのではないかとさえ思えた。


 もし誤解が解けなかったら、これから先もずっとあんな目で見られることになるんだと思うと、菜生はたまらない気持ちになった。


 昼休みが終わると、さっきまで人通りの激しかった1階のロビーは静かになった。

 空いているソファに作家を案内し、自分も向かいのソファに座って、菜生は航が来るのを待った。


 葛城リョウは、ソファにどっかりと腰をかけると大きく足を組んで、タバコを吸い始めた。菜生はなるべく彼を見ないようにした。ちょっと怖かったし、有名人を前にして緊張していた。


「ところでさー」


 とつぜん、彼が言った。くわえていたタバコを灰皿の上でぐりぐりともみ消すと、サングラス越しに菜生をじっと見た。


「アンタ、何なんだ?」


 いつもテレビで見ているのとまったく変わらない、ぞんざいな口調だった。やっぱりあれは演技でも何でもなくて、この人の素だったんだ、と菜生はひそかに感心した。
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