三日月の下、君に恋した
「オイコラ、聞いてんのかよ?」

 声が凄みを増したので、菜生ははっとした。


「すみません。申し遅れました。通販課の沖原と申します」

 急いで名刺を出そうとして、持っていないことに気づく。


「申し訳ありません。今、名刺を持ち合わせておりませんので……」

「そんなこと聞いてねーよ。そーゆーことじゃなくて、だからさー」


 そう言うと、彼はテーブル越しに身を乗り出して、ふいにサングラスをとった。淡いグレーの瞳が、菜生を探るようにじっと見つめる。


 カラコン? でもなんてきれいな……。


「ふーん。ま、悪くねーけど」

 用は済んだとばかりに、彼はまたサングラスをかけてソファの背にもたれかかった。


 菜生は少しがっかりした。あんなにきれいな目をしているのに、どうしていつも隠しているんだろう。

 これまでまったく結びつかなかった彼の作品と彼自身が、たった今結びついた気がした。そしてどういうわけか、緊張はしているけれど、彼を怖いと思う気持ちは消えていた。


 そのときエレベーターの扉が開いて、航が走ってくるのが見えた。

 菜生はほっとして立ち上がった。
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