三日月の下、君に恋した
「そーゆーことだから。ああ、見送りはいらねーよ」

 葛城リョウはくるりと向きを変えて、玄関に向かって歩き出した。


 呆然としていた航がはっとしたように、「ありがとうございました」と辞儀をする。菜生も慌てて頭を下げる。


「またな」


 後ろ手にひらひら手を振って、葛城リョウはビルを出ていった。


 彼の姿が見えなくなると、隣に立つ航がかすかに息を吐くのが聞こえた。それから菜生を見て「大丈夫?」と聞いた。

 菜生はうなずいた。


「思ってたより……その、悪い人じゃないみたい」


 航は複雑そうな表情を浮かべて黙っている。

「あの、よかったんですよね?」

「え?」

「引き受けてもらえて」

「ああ……」

 彼はなぜか、ちっともよくない、と言いたそうな顔をしていた。何かを考えこむように航が黙りこんだので、菜生は焦った。自分のせいかもしれない。
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