三日月の下、君に恋した
14.こういうやつだった
航は寝ころんだまま、「人ん家の庭に勝手に入ってくんな」と言った。
「何だと? 呼び出したのはてめーだろ」
葛城リョウはその場でタバコをくわえ、火をつけた。航は起き上がって縁側に座ると、タバコを吸う男を見上げた。
「何で引き受けたんだ」
「あー?」
「あれほど断れと言ったのに」
「そんなの俺の勝手だろーが」
「おまえが絡むと話がややこしくなるんだよ。今からでも遅くないから断れ。つーか、断ってくれ。頼むから」
「やだね」
ふうっと煙を吐き出して、リョウは斜め上から意地の悪い視線を下ろしてくる。
「おまえ、俺に命令できる立場か? 勝手に仕事放り出して雲隠れしやがって。貴様がトンズラしたせいで、俺の原稿はちっとも進んでねーんだよ」
航はため息をついて、「悪かった」と言った。
「何だ、素直だな」
「その件は、ほんとうに悪いと思ってる。松田さんに代理を頼んでおいたんだけどな」
「あれか。ありゃダメだな」