三日月の下、君に恋した
「ダメ? でも編集の経験は俺より長いし、知識も豊富で……」

「アホ。あんな気弱なオッサンに俺の担当がつとまるわけねーだろ。いい加減いじめるのも飽きたしな」

「……原因はおまえか」


 リョウに振り回されている松田の泣きっ面が目に浮かぶ。


「やっと連絡してきたと思ったら、今はハトリの社員だから話を合わせろだと? 何やってんだ、おまえは」

「だから、それは説明できないって言ったろ」

「……へーえ」

 タバコを咥えて腕を組む。リョウの目つきが変わる。グレーの目がいっそう透明度を増した。


「悪いけど、おまえと揉めてる暇も余裕もないんだ。どうしてもやらなきゃならないことがあって……」

「じゃ、いーんじゃねーの。俺は俺で勝手にやるから」

「だから、それは困るって」

「理由も聞かされないまま、俺が引き下がると思ってんのか?」


 やっかいなことになった。これだから、連絡したくなかったのだ。


「それに」と、リョウは不適な笑みを浮かべて言った。

「おまえ、あの専務にカンペキ睨まれてるだろ」

 嫌な展開になってきた。
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