三日月の下、君に恋した
「それにな。ハッキリ言うけど、おまえにあの専務の相手はできねーよ」

 リョウの言葉に、航はつい睨み返した。

「どういう意味だ」


「おまえみたいな真面目で誠実なだけが取り柄のやつが、あのどうしようもなく高慢で尊大で陰険で嘘つきで自己中心的で冷酷で薄情で、自分より弱い立場の人間を徹底的にいじめて喜ぶよーな変態野郎と同等に渡り合えるわけがねーって言ってんの」


 リョウが一気に並べたてた悪態の数々を、航は半ば感心して聞いていた。

「おまえ……たった一回会っただけで、よくそこまで見抜けるな」

「匂うんだよ」

「は?」

「同類の匂いがぷんぷんする」

 威張った態度で自信たっぷりに言う。

「あのオッサンの相手は、俺くらいのレベルじゃねーとムリ」


 航は思わず吹きだしそうになった。確かにそうかも。でも。

 リョウはあいつとはちがう。


「変態野郎の相手は俺に任せて、おまえは自分のやりたいことをやれ。何だか知らねーけど、そのためにハトリにもぐりこんだんだろ? オッサンにケンカ売ってる場合かよ」

 航は軽くため息をついて立ち上がると、「わかった」と言った。
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