私の好きなあなたが幸せでありますように
私の方向音痴は筋金入りだ。
どれくらい方向音痴かというと高校の校舎内で迷子になれるくらい方向音痴だ。
ちなみに私の通っていた高校は普通の公立高校で、莫大な土地を有していたわけでも、マンモス校と言われるほど人数がいたわけでもない。
つまりごくごく一般的な広さの、ごくごく普通の高校の校舎内で、迷子になれるくらい私は方向音痴だ。ある意味才能だとさえ思う。
右と言われればためらうことなく左に進む。わざとではない。本気でそれをやってのける。
だからそんな私に、一人でその店に来いというのは無謀な話だった。
連れて行ってくれる誰かがいるならまだよかっただろう。もしくは迎えに来てくれるでもよかった。
でも現実はそうではなくて、電話口で時間と場所を端的に述べられて切れた。
なんて横暴な誘い方だろう。
だがその日1日暇人をしていた私は、特別断る理由もなかったからその誘いに乗ることにした。
ただの飲み会。
でも1日暇だ暇だと騒いで終わるよりは幾分かマシな週末を過ごせたことになるかもしれないと、そんなどうでもいいことを考えていた。

大学は春休みに入っていたから寮の友達はもうほとんど実家へと帰っていた。
かといって地元の友達がみんな都合よく予定が合うわけもなく、一人でレポートなんかをまじめにこなしていた。
毎日毎日同じことの繰り返し。
あまりにまじめにやっていたから、課題なんてすぐに終わってしまった。
なんてこった。

そんな日に降ってわいた飲み会の話。
それはもう行くしかないな。
というわけで私は流されるままにそそくさと準備をしたのだった。
ただし、たどり着ける気がしない。
地元だ。
土地勘は十分にあるはずだ。
それなのに場所が分からない。
単純な話。
私があまり居酒屋に用事がないから。
正直に言おう。
私は下戸だ。
そして飲ませると始末に負えないくらい面倒らしい。
らしいというのは飲み会前後の私の記憶が曖昧だからだ。
気づけば友人宅のベッドを占領しているなんてざらにある。
急に泣き出したり笑いだしたり、まぁとにかく色々とやらかすものだから、最近ではあまり飲ませてくれなくなった。
そんな私に飲み会の誘い。
もう奇跡に近いな。
なんて考えていたら案の定迷った。
ここがどこかは分かる。
店の場所は事前に地図を出してきたし、何となくあたりも付けてきた。
それなのにたどり着けない。
これは一体どういうことだ。
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