私の好きなあなたが幸せでありますように
「すみません、道をお尋ねしたいのですが」

藁にもすがる思いだった。

足を止めてくれたのは細身の男性。
顔は暗がりでよく見えない。
相手の背が高いから、私は必然的に見上げる格好になる。
断じて言っておく。
私の背だってそんなに低い方ではない。彼が高すぎるのだ。

「ええっと、俺こっちの方の人じゃないんだ」

彼はいかにもすまなさそうに言いながら、それでも私の持っていた地図を覗きこんでくれた。

「ああ、なんだ。俺の行くとこと同じ店だよ。すぐそこ」

店の名前を見た途端、彼はそういった。
彼の指し示したすぐそこにその店はあった。
店の近所でその店を見つけられないなんて、とちょっと恥ずかしい思いをしつつ店まで彼に同行させてもらった。

私のいた場所からほんの数メートル先にその店は存在していた。
私の目は節穴だな。
一応コンタクトを入れているから両目とも1・2の視力があるはずなのに。

カランカランっと軽快な音を立てドアが開く。
ドアは自動ではない。
彼が開けてくれたのだ。
お先にどうぞ、なんてなかなか紳士的ではないか。
ちょっと好印象を持ちつつ、ぺこりと頭を下げてお礼を言った。
入った瞬間待っていたのは、

「莉奈遅い!あんたまた道に迷ったでしょ!?」

「陸、ここよく分かったな。連絡来ると思ってたのに」

そんな二つの声だった。
陸と呼ばれた彼と顔を見合わせる。
瞬時に悟った。私はどうやら合コンの欠員で呼ばれたらしいと。

そんなわけで陸と初めて会ったのは私が迷子をしている時だったのだ。
偶然なのか運命なのか、そんなのどっちでもいいけれど、初めて会った瞬間から私は陸に助けてもらっていたことになる。
そしてその後もずっとお世話になりっぱなしだ。
そうなる近い未来のことを、この時の私はまだ知らなかった。
< 7 / 13 >

この作品をシェア

pagetop