線香花火
「叶わなかったこの気持ちは、一体どこにやればいいのかな?」

 最後の線香花火が消えた時、消えそうな声で千秋がそうつぶやいた。

「いつか、消えてなくなっちゃうのかな?」

 この線香花火のように、一瞬で消えてしまえれば、どれだけ楽になれるだろう。
 でも彼女がそんな軽い気持ちであいつのことを想っていたわけじゃないことくらい知っている。

「消えてなくなっちゃうなら、それは最初からなかったことと同じなのかな?」

 誰かを好きになるということは、きっと避けることのできない出来事で。

 でも、それが叶うとは限らなくて。

 その気持ちの置き場所を僕らはいつも探しているんだ。

「だから、俺にしとけばよかったのに」

 ずっとずっと、千秋が好きだった。でも、僕の気持ちは届かない。

「ごめん、明のことは友達としか思えない。なのに、こんな風に呼び出して、明の気持ち利用して、私って最低だね」

 そう、千秋は最低で、我がままで、僕を振り回して、かき乱して……。

 それでも、そんな彼女が好きだった。

 そして諦めきれない僕は、今もこうして抗えずにそばにいる。

「いいんだよ、別に。俺は好きで利用されてるんだから」

 失恋を知った千秋は、さらにきれいになったと思う。
 そしてきっとこれからももっともっときれいになっていくんだ。

 僕は、いつまで見ていることがでいるのだろう?

 いつまで、彼女のことが好きなのだろう?

 いつになれば、こんな気持ちがなくなるのだろう?

 いつか、この胸の痛みがなくなるのだとしても。

「俺は、それでも千秋を好きになってよかったよ」

 線香花火のように一瞬で消えてなくなれない僕たちは、これから先も何度となく誰かを好きになっては、痛みを引きずりながら、それでも生きていかないといけないのだろう。

「ありがとう」

 小さくつぶやく千秋の目からは、耐え切れずにこぼれた涙が溢れた。
 僕にとっては、千秋の泣き顔さえも愛おしい。

「頑張らなくていいから、とりあえず今は泣いとけよ」

 僕のこの気持ちは、千秋には届かないけれど。
 初めて知ったこの痛みを与えてくれたのが千秋でよかったと、僕は心の底からそう思う。

 真冬の夜空に白い息を吐き出して、僕は千秋の頭をそっと撫でた。

 どうか、彼女の痛みが少しでも和らいで、今夜安らかに眠れますようにと
願いながら。
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