空夢





「助けてあげれんかったから」




今井さんが小さく呟く。




「……っそんなことない!あたしは、今井さんと話すだけで救われた。一人ぼっちやと思ってたけど、そおじゃないんやって思えた。だから、自分を責めんといて!」




あたしの声が廊下に響く。



勢いあまって声を張り上げすぎた。



恥ずかしくて俯く。



それと同時に顔が熱くなる。



ふと少し右手の親指に違和感を感じる。



見ると、今井さんがあたしの親指を掴んでいた。



そして




「…ありがとう」




涙を溜めながらそう言った。



今日何度目かの“ありがとう”。



心が温かくなる。



この1日であたしは、“ありがとう”という言葉を好きになった。



“ありがとう”を愛しく思った。




「ありがとう……」




今井さんの手を握り、言った。



慣れていないせいか、胸の脈打つ早さが早くなった。




「うん」




今井さんはそれだけ言って、静かに涙を流した。









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