純粋な愛
雨のあとの草の匂いも
好きだけど
夕方の空の色と空気の方が
好きだから
ちょっと残念だった
雨が降ると
僕は決まって
ずぶ濡れになる
移動しても良いんだけど
寝床のタオルは惜しい
前にとんでもなく寒くて
眠れなくて
ずぶ濡れになった夜
僕は堪らなくなって
移動したんだ
そしたらどこからか
人相のわるいやつが出てきて
僕の食料を奪っていった
それ以来
僕は夜はここを
離れないようにしている
でもね
昼間は奪われないから
その間に
食料を調達するんだ
そんな毎日が
続いていたんだ
もうどれくらい昔からか
あんまり覚えていない
一番古い記憶は
車の中
ヒトから香る臭いと
ヒトが
くわえているモノからの
臭いがひどくて
一秒でも早く
外に出たいと思ってた
僕を抱いている
女のヒトの
爪は真っ赤で
ギラギラしていて
僕の渾身の
力を込めたパンチも
もろともしなかった
もがいていると
思いのほか早く
外の空気が吸えた
肺いっぱいに息を吸って
まずは深呼吸
真っ赤な爪から
解放されたから
思う存分のびていると
また抱き上げられた
でもすぐ下ろされた
ふわふわのタオルの上
周りは全部茶色
天を仰ぐと
明け方の空が見えた
…いや
もしかしたら
夕方だったのかもしれない
ともかくこうして
僕の暮らしは始まった