フラワーデイズ

「これなんだけど」

 男はポケットからスマートフォンを取り出すと慣れた様子で操作して画面に写真を表示した。

「昨日、花束買ったのはよかったけど、ウチって花瓶がなかったんだよ。だからほら」

 大きな画面に映っていたのは深い鍋に入れられた花束の姿だった。

「これ、鍋ですよね?」
「うん。水が入る容器なんて洗面器かこれしかなくてさ」

 男は笑いながら自分は料理なんてしないけど知人から貰ったきり使ったこともない鍋があってラッキーだったという。 

「それで私にお願いっていうのは」
「せっかく花束買ったのに飾らないのはもったいないから、花瓶を買おうと思ったんだよね。でもそういうのってよくわからないから君に選んでもらおうと思って」

 ニコッと笑う顔はたぶんやっぱり相当に整っている。だけれど私が答えなかったのはそれに見惚れているわけではなかった。

 どちらかといえば本気で呆れていたのだ。



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