フラワーデイズ


「うちの店にもいくつか置いてありますから、どうぞ買ってください。私はもう上がりですけど、他にスタッフはいますから」

 冷静になればそれで済む話だ。
 どこかに買いに行くのではなく、ウチの店で買えばいい。ウチの店ならすぐそこにありこの男だって知っている。

「だってユウキちゃんいないんだろ。それじゃ意味ないよ」
「花束なら人によってセンスは違いますけど、花瓶なら店員のセンスは関係ないですよ」
「関係あるよ。だって僕は君に選んで欲しかったんだし」

 私は目の前の男を見ながら、名前はなんだっただろうかと頭の中で考えていた。背が高くセンスとスタイルの良い怪しい男の客…。


「どうしてですか。昨日一度店で会っただけですよね」
「そうだよ。でも、君が僕のこと知らなかったから」
「え?」

 意味のわからない男の言葉にますます私は怪しく思って自然と一歩後ずさる。

「あ、意味不明だとか思ってるんでしょ」

 ウインクをしそうな顔で男は愉快そうに私を見ていた。この状況でこんなこと言われて意味がわかる方が変だと思う。


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