セイントロンド
「メアリー、泣いてたぞ」
カインの言葉に私は"あぁやっぱり"と思う。
メアリーを泣かせるのだけは私の特技なんじゃないかと思う。
「あんまり泣かせてると愛想尽かされるぞ」
カインは冗談じみた言い方をする。
「…………そう」
それも仕方ないと思った私は無表情でそう答えた。
それを聞いたカインの顔がみるみるうちに怒りを宿していく。
「…何も感じないのかよ…」
いつもよりはるかに低い声だった。
「メアリーが泣いてんだ。お前が大切だから、出来る事をしたいって…。でも、お前の無神経な言葉にあいつは壊れかけてんだよ。もっと大事に……」
「言いたいのはそれだけ?」
まだ説教を続けようとするカインの言葉を遮る。
言わせておけば………
何も知らないくせに……
「そんな言い方ねぇだろ!!」
「私は、この世界に大切なものなんて無いし、作る気も無い」
いつかは消えてしまう。
そして全て無になるんだ。
「大切なものを沢山沢山大事にして、いつか手放さなきゃいけないとしたら?」
目の前でまるで淡い夢か幻のように消えてしまったら?
カインが驚いたように私を見る。
「そんな恐怖を、あなたは味わった事がある?」
冷たい氷の海に沈んでいくように…
体も心も凍っていく…
光なんて見えない真っ暗な底の底まで………
「アメリアは…そんな恐怖を味わった事があるのか…?」
真剣な瞳を向けるカインから目を逸らした。
「………………………」
カインの質問に何も答えられなかった。
味わったなんてもんじゃない……
聖女というだけでこの世界から死ぬ事を望まれ、生きる事を否定された。
夫と娘を愛し、生きたいと願っただけで…
母さんは…異端とされた。世界の為に戦ったのに…
それなのに……