セイントロンド
《カインSide》
「…なぁ、アメリアはどうしてあんな寂しそうな顔をするんだろうな…」
―この世界に大切なものなんてない。
―作る気もない。
"聖女"ってもっと良い扱いを受けるものだろ?
「…ここに、あの方の居場所は無いのかもしれません」
「居場所が…ない…?」
メアリーは晴れ渡る空を見上げた。
「あの方のお母様は、ワルプルギスの夜に亡くなりました。でも、最後まで力をお使いにはならなかった」
ワルプルギスの夜……
魔女の祝祭日だ。
この日、聖女は聖なる力を使い、世界を救うのだと伝えられた。
何故力を使わなかったんだ?
「アメリア様のお母様は、まだ幼いアメリア様と、旦那様と生きたいと願ったのです。でも…選ばなければいけなかった」
「……選ぶ?」
メアリーは空から視線を外し、俯く。
「生きるか、世界を救うか……。結局、あの方は最後まで生きたいと願った」
生きる事、世界を救う事…
「何故、両方を選ぶ事は出来ないんだ?」
「………それは………」
メアリーは言いにくそうに言葉を詰まらせた。
言えない理由があるんだろう事は分かる。
でも、引き下がれない。
自分でも驚くくらいアメリアの事を知りたいと思う自分がいるんだ。
「…それは、アメリア様に語る事を禁じられています。ですから、私が言えるのは………。大魔女相手に、力を使わないのは無防だった、という事です」
「それで…母親は……」
何となく予想はつくが、聞かずにはいられなかった。
その予想が当たらなければいいと思う。
「…お母様とお父様、お二人は生きる為に、最低限の力で大魔女リリスを封じ、結局………力尽き、アメリア様を残して……」
あまりにも壮絶すぎた。
聖女がどれだけ辛い運命の元に君臨するのか…
「だから…誰も信じられないのか…」
信じても消えてしまったから。
一番辛い時に、誰も…
あいつの心の叫びに気づいてやらなかったから…
「…ずっと一人だったんだな…」
初めて"アメリア"という少女の事を知った気がする。
「…時々、あの方を泡沫なのではないかと思う時があります。いつか…泡沫の夢のように、あの方が消えてしまうのではないかと…」
メアリーの言った言葉は、自分も感じていた事だった。
"儚い"という言葉が正しいのだろう。
いつか、手の届かない所へ行ってしまうのではないかと不安になる。
「俺達が…傍にいて守ってやればいい…」
見ていて、消えてしまわないように…
俺が守ってやる………