セイントロンド
「…久しいのう、アメリア」
巫女の間に通され、最初に声を発したのは、長い翡翠の髪と瞳を持つ先を見知る者、星読みの巫女、フィリナだった。
「久しぶり、フィリナ」
フィリナに促され、向かいの席に腰を下ろす。
「相変わらずだのう。わらわの前でくらい表情を出さんか」
「もとからあんまり表情豊かな方じゃないからね」
どうやら私も門番と同じくらい無表情だったらしい。
「可愛くないのう…。それよりアメリア、本題に入るぞ」
フィリナの言葉に頷いて同意を示す。
フィリナが顔を強張らせているなんて滅多にないのに…
嫌な予感がする……
「……………………」
「…………フィリナ?」
言いづらそうなフィリナに私は声をかける。
本当にどうしたっていうの?
一体何が…………
「時が来た………」
「え………?」
"時が来た"
フィリナが告げた言葉は信じられない言葉だった。
つまり………
「ワルプルギスの夜が来るというの?」
母さんと父さんが大魔女リリスを封印してから10年ちょっとしか経ってない。
「封印が解けるには早すぎる」
確かに、力が弱ければ早く封印がとけてしまうけれど、こんなに早いなんて…
「おぬしの母君は力を使わなかったからのう…」
「でも、"あれ"の封印はちゃんと………」
今だって母さんの力が大魔女リリスを封じているのを感じる。
「"今は"な…。わらわは先の、未来の話をしておる」
「あ……」
そうだった……
つい、母さんがまた否定されてしまうんじゃないかって……
冷静にならなくちゃ…
もっと心を強く。
母さんの事で動揺していたら、肝心な時に動けなくなる。
「ワルプルギスの夜は近い。月が紅を宿す時、魔は目覚め、世に死や凶荒、厄という厄を引き起こすであろうのう」
「恐ろしい予言だね」
一言で言えば…"絶望"だ。
「あぁ、恐ろしい予言だった…。今だに瞼の裏に蘇る」
フィリナはこめかみを押さえて天井を見上げる。
巫女には巫女の苦痛があるんだろう。
私にも分からない苦痛が…
「こんなに早く別れがくるなんてね」
「…平気そうに言うのう…。恐くはないのかえ?」
恐い…か………
むしろ、私が死ぬ事で母さんの事を悪く言う人が減ればいい…