キズナ~私たちを繋ぐもの~
キズナ

彼と私


 夜景というものはどうして人の目を引き付けるのだろう。

人が暮らすための明かりを、ただ遠くから見ているだけなのに。


その光は幸せの象徴で、おすそ分けをもらった気分になるからかな。

それとも、高みから見下ろすことで、自分が偉くなったように感じることが出来るからなのかな。


宝石みたいなのに、手が届かない。

届かないからこそこんなにも引き付けられるのかも知れない。

心ごと、吸い込まれてしまいそうなほど――――



「……の、綾乃(あやの)!」


彼の声で我に返る。


「フォーク、止まってるぞ」

「え? あ、ごめんなさい」


持ちあげたまま動きを止めていたフォークの先には、一口大の牛ステーキ肉が引っかかっている。
絡みついていたはずのソースはお皿の上に落ちていた。

嫌だ。どのくらいボーっとしていたのかしら。

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