キズナ~私たちを繋ぐもの~
『彼』が帰ってきたのだろう。
タクシーの運転手と話す声がする。
急に胸の奥がざわついた。
どういう顔をすればいいのか分からない。
『彼』に、この話をしたくない。
ならば、自分の部屋にこもればいいのだが、今からではもう遅い。
玄関が開いて、「ただいま」の声が響く。
もう逃げ場もないと観念した私は、寝たふりをすることにした。
「綾乃、いないのか?」
襖が開いた音がする。
と同時に、溜息の音。
『彼』の呆れたような表情が目に浮かぶようだ。
「おい」
呼ばれて肩を揺すられる。
それでも返事をせず、下手くそな寝息を立て続けた。
お願いだから、放っておいてよ。
後で勝手に部屋に行くから。
そんな私の願いは通じる訳もない。