キズナ~私たちを繋ぐもの~
唇に、何か柔らかいものが触れた。
鼻につくアルコールの匂いでそれが『彼』の唇であることが分かる。
そっと離れた時にかかる溜息。
掠れたような声で呟かれた言葉。
「愛してるよ……」
それは空耳だろうか。
空耳でなくてはいけない。
「……駄目だ。酔ってるな」
しばらくの沈黙の後、『彼』はそう呟いた。
立ちあがる気配と共に、扉が閉まる音と階段を下りる音が響く。
『彼』はもう、部屋から出て行ったのだ。
けれども、私はまだ瞳を開けることが出来なかった。
静かな室内とは対照的に激しく鳴り響く心臓の音に、気がおかしくなりそうだった。