キズナ~私たちを繋ぐもの~
「綾乃、落ちつけよ」
司の傷ついた響きの声も、頭には入ってこない。
混乱する頭の中では、何か耳鳴りのような音がずっと鳴り響いていた。
不快な物音。
神経を針でつつかれているような感覚。
気持ちが悪くて、何も考えられない。
「落ちつけ、アヤ」
そこへ、スッと入ってきたのはとても懐かしい声だった。
あの日も聞いた、低い声。
「大丈夫だ。俺がいるから」
そう。
父の死と母の入院に絶望を感じたあの日も、そう言ってくれた。
何があっても私を投げ出さないと、まだ18歳だった兄が手を広げてくれた。
「……お、兄ちゃん」
「アヤ」
兄が私を抱きしめる。
懐かしい匂い。広い肩。
頭を支配する耳鳴りが、少しずつ遠ざかっていく。