キズナ~私たちを繋ぐもの~
心配そうに頬に触れる手には、まちがいなく私への愛情がある。
今はその体温も、温かく優しいものだと感じられる。
それでも、私の答えは変わらなかった。
「……ごめんね。でも今日は、家に帰る」
「綾乃」
「お母さんがいた家に帰りたいの」
「……わかった」
司は頬をもう一撫でして手を離した。
固い表情で私たちを見ていた兄の頬の筋肉が緩む。
司は兄に向きなおって、頭を下げた。
「綾乃をお願いします」
「いや、……悪かった。
葬式とかの準備もあるから。また連絡させてもらうと思う」
「はい。……綾乃。困ったらいつでも電話しろよ」
「ありがとう」
司が背中を向けて歩いていく。
私はその背中が廊下の角を曲がるまで見送って、今度は兄を見上げた。