キズナ~私たちを繋ぐもの~
司の表情が変わる。
眉根にしわが寄って、目から穏やかさが消えた。
「綾乃?」
「……ごめんね。でも、考えたの。やっぱり結婚って、こんな逃げるような気持ちでしちゃいけないんだと思う」
「達雄さんと、何かあったのか?」
「ううん。違う。お兄ちゃんは何も関係ない」
「じゃあ、どうして」
彼が手を伸ばす。
けれど、テーブルがあるから私までは届かない。
私は、彼の手に触れないように少し身を引いて、しっかりと彼の目を見た。
「……別れてください」
ドン、と机を叩く強い音がした。
一瞬周りの空気が固まったのが分かった。
近くのテーブルの人も言葉を失くし、しばらくしてからまた話し始めた。
私は俯いたまま、その空気が動き出すのを待った。