キズナ~私たちを繋ぐもの~
「お兄ちゃんが、大好き」
自分の耳にも届かないほど小さな声で呟く。
震えるほど高鳴る鼓動は、それが穏やかなだけの家族愛ではないと、今更ながらに私に訴えかけるけれど。
それさえも、こみ上げてくる涙と共に呑み込んで、ここに置いていこう。
「とても、……大好きでした」
心地良い夜の闇が広がり、今だ冬の気配の残る冷えた空気が静かに私の体を撫でまわす。
私は兄の部屋の扉に小さくお辞儀をして、自分の部屋に戻った。
睡眠時間は、3時間。
朝一番のバスが出る時間に、私は持てる限りの荷物を持って、この家を後にした。
今だベッドで眠る兄は、まだそれには気づかないだろう。
「さよなら」
後悔や寂しさは、きっと後からの方が募るのだろう。
走り出すバスの中で朝日を浴びる私には、不安もあるけれど期待の方が大きかった。
「……さよなら。お兄ちゃん」
決別は、朝日の中で。
夜の闇の中でするよりもずっと前を見る力が出るから。