キズナ~私たちを繋ぐもの~


『いやだよ』


駄目だ、でも、無茶だでもない。

それは「いやだ」という意志。

彼女に別れを告げられてから、感情のこもった言葉に触れたのはこの時が初めてだったように思う。

そしてそれは、予想以上に俺を揺さぶったのだ。

8歳の綾乃が、体中で俺に行くなと訴える。

頬を真っ赤にして涙で目を潤ませて、途方に暮れたように泣く姿は、俺が彼女に振られた時にそうなりたかった姿。

もちろんその時は、格好悪くてそんなことは出来なかったけれど。


本当は、……そうだ。

こんな風に、綾乃みたいに体中で泣きたかった。


まるで、綾乃が俺の代わりに泣いてくれているような気がして、
例えようもないような愛しさが、この時つきあげてきた。

俺は綾乃を抱きしめて、心の底から「ありがとう」と言った。

それは俺が欲してやまない家族の絆を、綾乃がくれたという感謝の気持ち。

綾乃の為に、何でもしてやろうと思った。

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