キズナ~私たちを繋ぐもの~


綾乃が可愛かった。

その成長が嬉しかったし、愛しかった。

必ず幸せになって欲しいと、願ってやまなかった。

それはともすれば、父親のような感情で。


その一方で。

自分の方を向かせたい気持ちもあった。

他の男じゃなく、俺だけに笑ってほしい。

傍にいて、日々を重ねて。

二人だけの世界に生きていたいとさえ思ったこともある。

それは俺の男としての感情だったのだろう。


二つの感情がせめぎ合って、常に勝利を収めるのは父親のような感情。

綾乃が俺に気持ちを伝えてくれた時さえ、そうだった。

こんなうだつの上がらない、迷ってばかりの男より、司くんの方が将来性がある事も明らかだった。

恋心を押さえきれない癖に、
自分の考える『彼女の幸せ』を優先した。

その結果がこれだ。

綾乃は自分の意志でこの家を出て、
俺は一人取り残される。

守りたかった家族を失って。


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