キズナ~私たちを繋ぐもの~


 空になった牛乳パックを洗って、さかさまに立てる。

飲み終えた方がそうして、乾いたのを見つけた方がハサミで開き、リサイクル用の袋に入れる。

昔、綾乃と決めたルールだ。


アイツがいなくなって一年。

思い出すのはそんな事ばかりで、俺はずっと未来に目を向けていなかったのだと気付いた。



 最初に向かったのは、墓地だ。

来週の月曜が母親の命日。

一緒に一周忌を行う妹も、付き合いのある親族もいないから、特別何もする予定は無かった。

ただ、綾乃にこの気持ちを伝えるならば、
まず先に両親に伝えるのが筋のような気がしていた。


線香と花を持って墓石の前まで行くと、真新しい花が飾ってあるのが見えた。

白と薄ピンクのスプレー菊の中で、ひときわ映えるオレンジ色のキンセンカ。

対になっている花台の片側にだけあるのは、たまたまなんだろうか。

自分の手にある花束の中の、同色のキンセンカを見て、苦笑する。

母さんの好きだった色。

綾乃も覚えていたんだ。


「……綾乃」


小さな呟きが、まるでロウソクに火をつけたかのように、胸に明かりを照らす。

白い菊しかささっていない方の花台に、キンセンカを差しこむ。

ようやく対になったその花は、まだ寒い2月の空を照らすようにまばゆい。


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