キズナ~私たちを繋ぐもの~


「綾乃を俺にくれないか」


素直で可愛くて愛しい妹。
いつだって、泣きだしそうな瞳で俺を見る。


「綾乃を愛してるんだ」


遠くで、電車の音がする。
墓地の一角にある常緑樹の葉ずれの音も。

さまざまな音に耳をすましても、俺の欲しい返事は来ない。

それは当然のことだ。
死人は何も語らないから。

それでも、告げることには意味がある。

自分自身の中で、何か頑ななものが溶けだして行く。


「行こう」


会いに行こう。

綾乃の気持ちが今はどうなのか、確かめに。

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