キズナ~私たちを繋ぐもの~
ブルースバー『Hellebores』の扉を開けた時、耳に飛び込んできたのは美しいピアノの旋律だった。
今日は金曜、店内は会社帰りの若者で込み入っていた。
俺もいつもならば、親友の英治を隣にカウンターでくつろいだりするのだが。
今日はちょっと違う。
隣で少し緊張気味の顔をする綾乃の背中をポンと叩いた。
綾乃と再会し、彼女に気持ちを伝え、違う形での家族になることを決めた。
そう、俺は綾乃と結婚した。
妻という形で彼女が自分の傍にいてくれることで、ようやく、地に足がついた気がする。
だけど今日は、
綾乃を、元彼の司くんに会わせる日だ。
否が応でも緊張は高まる。
本当なら会わせたくはなかった。
彼に対しては、何故か劣等感がある。
綾乃よりも、3歳年上という丁度の良い年齢差。
服装のセンスやこざっぱりとした髪型は育ちの良さをうかがわせる。
何より、彼は頭の回転がいいと思う。
綾乃が出て行った事を知らないまま、たまたまかけたという電話で
彼女の居場所の手掛かりを見つけてしまうのだから。
自分から見て、彼は俺よりいい男だ。
綾乃を任せるにふさわしい人物だった。
だけど結局、綾乃は俺を選んだ。
嬉しいことだが、正直に言えば、今だに信じ切れないでいる。
こうして、結婚指輪をはめた今でさえ。