キズナ~私たちを繋ぐもの~
「ちょっと居させて」
それだけを言うと、カウンターの席に腰を下ろした。
ありがたい事にオーナーは深く追求しない。
ホッと息を吐き出し、ふと隣を見ると、よくこの店で見かける常連客がいた。
以前、彼が載っている雑誌を綾乃が見ていたので、顔は見知っている。
名前は相川進。
モデルかと思っていたが、よくよく経歴を見てみれば本業は作家だという。
天は2物を与えることもあるんだよなぁとつくづく思う。
彼は、男でも一瞬引き付けられるような端正な顔を、楽しそうに緩ませる。
「なんだ、追い出されちゃったの?」
「あ、こんにちは」
俺は軽く会釈をする。
きっと俺の方が年上なんだろうが、先生と呼ばれる職業の人間には風格がある。
なかなか軽く話は出来ない。
彼とオーナーは友人らしく、時折軽口をたたきながら、談笑している。
そのうちに、オーナーは他のお客の注文の品を完成させたのか、カウンターから出て行った。
話相手を失った作家先生は、俺に狙いを定める。