キズナ~私たちを繋ぐもの~
兄と母
病室の前で扉を開けようとした時、兄と母の話声が聞こえて、私は思わず手を止めた。
「母さん」
「だって、そうだろう。
私が生きてたって、綾乃の結婚にだってお前の結婚にだって障害にしかならないじゃないの。
あの時、死ねてれば良かったんだ」
母が、また弱音を吐いている。
繰り返し囁かれる弱音は悪魔の囁きのよう。
私には段々、それが本当の事に思えてくるから嫌だ。
兄は一つ長い溜息をついた後、振り切るようにはっきりした声で言う。
「母さん、バカなことばっかりいうなよ。
確かに親父は早く死んで、良い父親だったのにと言われるかもしれない。
でもな、死んだらそれきりだ。
この先俺や綾乃が迷っても、何の助言も出来なければ支えにもなれない。
生きてる方が勝ちなんだよ。
親が生きてるってだけで、子供はどれだけ救われてると思ってんだ」
「……達雄」
兄の言葉に、私も息を呑んだ。
兄はどうして、こんな風に母をたしなめれるんだろう。
私にはできない。
一緒に不安になってしまうだけ。