キズナ~私たちを繋ぐもの~
「綾乃」
支払いを済ませた後、彼は私の手を引いて外へと連れ出した。
夜風が寒くて身を縮めると、風から守るように肩を抱いてくれる。
「家に来る?」
彼の誘いは正当なものだ。
彼女の誕生日、一緒に夜を過ごす。
そんなの当たり前のことなのに、今日の私はどこかおかしい。
素直に頷く事が出来ない。
「ごめん、今日は帰る。明日も……仕事だし、ね」
「そうか」
一瞬の沈黙に、彼の落胆が見てとれる。
どうしてこんな酷い事を言ってしまうのだろう。
彼は優しい。
私の事を、こんなに大事にしてくれるのに。
それでも、今日は抱かれたくなかった。
鞄に入った指輪が痛いくらいに存在感を放って、私の迷いを責め立てる。
こんな気持ちで、抱かれるのは嫌だった。