いかれ帽子屋はせせら笑い、ヤンデレ双子はただ愛した
「香我美(かがみ)、寒くない?」
労りの言葉を右桜は左斜め下かけた。
急激な気温変化ではないが、若干右桜にはここが寒く感じられての心配だが――声をかけた相手からは返事がない。
「そっか、やっぱり寒いか。どこか温かい場所があればいいんだけど。あ、それまで俺が抱き締めてあげるから」
さも会話をする右桜がしたことは、肩からかけていたショルダーバッグを両腕で抱きすくめたことだった。
大切に、美術品が如く優しく。寒くないようにと赤子を抱く母親のようでもあった。
「香我美、温かい?――うん、そっか。俺もね、温かいよ」
ショルダーバッグに口をつけながら子守唄らしく囁く右桜。片やの左桜は別段、気にすることなく前を向いていた。