私の烏帽子さまっ!
『そんなこと言われても…。』
ていうか そんな目で見ないで。ちょっと潤っとした目を私に向けないで。
「うーん。どうしても信じてもらえないか。じゃあこうしよう。」
そう言って私の腕を掴んでくる妖と名乗る美青年。
『えっ…ちょっと!何すんの?』
まさか力ずくで…とかないよね?
そう思いたいけれど、どんどん腕を掴む力が強くなってくる。
どうしよう!私、そういうのはちゃんと付き合った人とじゃないと嫌なのに。
『いっ嫌!やめてよ!力ずくとか最低よ!!』
「は?力ずく?さっきから何を言っているのだ。」
あれ?
私の言葉を聞いて明らかに怪訝そうな顔をする美青年。
「私はただ、外に出て散歩でもしようかと思っただけだ。私は人に化けない限り、契約者であるあなた以外の人には見えない。」
『散歩だったの!?その前に契約者って何の話?』
「まあまあ。その話は後だ。まずは私が妖と言うことを信じて貰わないことには。」
『ちょっと待ってよ!』
本当に強引だな、この人。いや妖?
私はしぶしぶ、美青年に連れられて散歩?に行くのだった。
ていうか いい加減美青年って呼ぶの面倒臭い。
『ね、あなたの名前は何?』
そういえば名前聞くの忘れてたよ。
「そうだったな。まだ名前言って無かったか。」
ふう。と一息置く美青年。
「私の名は…。」
『名は…?』
「名は…。」
『名は…?』
「名は無い!」
は?何言ってんのこの人?散々ためといて何そのオチ!
『いや意味分かんないし。』
「意味分かんないも何も、名が無いと言っているんだ。だから、あなたに名を付けて欲しい。」
『え~…。いきなり名付けろと言われても…。』
さっきから妖だと信じろだの名付けろだの無理難題押し付けられてばかりだな、私。
確かに人では無さそうだな、無茶ぶり具合が。
『うーん…名前ねぇ。』
そう言って私はまじまじと美青年を見つめる。
本当に顔整ってるなぁ。今まで会った男性の中でダントツかっこいいよ。
あとは服装だな。昔あってた陰陽師の映画に出てきそうな服を着てる。もしくは雛人形のお内裏様の服だ。何て言うんだっけ、束帯だったかな?
あと頭に乗ってる物が気になる。妙に彼にフィットしてる。
これは…。
『烏帽子(エボシ)…。』
気付けば自然と口に出していた。