私の烏帽子さまっ!
「烏帽子という名を付けてくれるのか?」
『へ?あ、いやそういう訳では…。』
「違うのか?私は結構気に入ったのだが。」
え、烏帽子でいいの?名前。
『えっと、アナタがそれでいいならいいけど。』
「うん。じゃあ、これから私は烏帽子だ。主、あなたの名は?」
『平原愛花(あいか)。で、主ってどういうことよ?』
なんかちょくちょく契約者とか主とか変なこと言ってるな。
「まあ、その話はあとにして…。」
また後回しかい!!
「平原愛花。私、烏帽子はアナタを主とする。」
『え?いきなり何言ってんの?』
なんか、変な感じだ。体の中が熱いような、頭がぼーっとする。
「失礼。」
そう言って、端正な顔を私に近付けてくる烏帽子。
次は何をするつもり?
私は訳が分からないまま烏帽子の目を見つめる。しかし、どんどん近付いてくる烏帽子の顔。烏帽子の瞳が私を捉える。
瞳に困った私の顔が映る。何だろう、体が動かない。
『んっ!』
え?ちょっと…今、何を…。
「うまく契りを交わせたな。これで私と愛花は正式な主従関係が結ばれだぞ。」
『ちょっと!何すんのよ!?』
有り得ない!本当にコイツ有り得ないよ!!
だっていきなり顔近づけて来たと思えば、なんと私にキスしてきたのだ。
ていうか、このキスは私の…。
『私のファーストキス~(泣)』
なんてことしてくれるんだ!
だってさ、ファーストキスってなんかこだわりあるじゃん?
海辺で…とか、学校の屋上で…とか。
それが、夕暮れ時の家の玄関前って…なんというか夢が無い!
「ふ、ふぁー…すと?よく分からんが、すまなかったな。」
『謝るくらいなら、最初っからするな!』
「あら?愛花ちゃん、さっきから何1人で喋ってるの?」
『あ、駄菓子屋のおばちゃん…。いや、ちょっとね…。』
びっくりした~!!
ってかやっぱり烏帽子のこと見えてないの?
「そう?1人で何やってるのかと思ったわ。」
『あははは。もう家入るから。じゃあ、今度また駄菓子屋来るね。』
「あら嬉しいわね。戸締まりしっかりするのよ~。」
『はーい。』
おばちゃん…何のリアクションも無し?
普通、烏帽子みたいな世界違うような人見たら何かしらリアクションするものでしょ。やっぱり…やっぱり見えてないのか、烏帽子のこと。
「これで信じてくれるか?」