私の烏帽子さまっ!


ガチャ


私は烏帽子の問いを無視して、とりあえず家の中に入った。
だってここで何か答えたら、また1人で喋ってると思われるし。


「どうなんだ?愛花。」


『う…。分かったよ。信じるよ、烏帽子が妖だって。』


駄菓子屋のおばちゃん、私が1人で喋ってるって言ってたし。
私にははっきり見えてるのにな。


「そうか。良かった。」


『良かった…じゃないわよ!さっきのキスは一体何なの?』


くそう。顔が良ければ何でも許されると思うなよ。そういう男が私は一番嫌いだ。


「きす…口付けのことか?」


『そうよ。』


「あれは主従関係を結ぶ時に必要なことなんだ。まず主とする人に名を付けてもらい、そして主に口付けをする。儀式なんだよ。」


いかにも真剣そうな面持ちで言う烏帽子。
主従関係って言ってるけど、主の唇奪う主従関係ってどうなの?


『とにかく、玄関で話すのもアレだから、とりあえず私の部屋に戻ろう。話はそれからよ。色々聞きたいことがあるし。』


「あ、あぁ。分かった。」


私は烏帽子の束帯の袖を握って、さっさと自分の部屋に入った。

はぁ。自分の家の中にいるのに疲れるなぁ。



『さ、入っていいよ。今から飲み物持ってくるから、そこに座ってて。』

「あー気遣い申し訳ない。」

『別にいいよ今更。』

本当に今更だよ。
つーかなんでいつの間にか友達来たみたいな感じになってるのだろう。

そんな疑問を抱きつつ、私はグラス二個に麦茶を注ぐ。妖って何が好きで、何が嫌いか分からないでしょ?だから一番無難な麦茶を出そう。


『お待たせー。はいお茶。』


「わざわざすまないな。」


なんだ、ちゃんと大人しく待ってるじゃん。


「ん。これは何というものなのだ?」

『あ、これ麦茶っていうの。…もしかして嫌いだった?』

もし麦茶嫌いなら、他に何だそう?
そう考えながら、烏帽子を見つめる。

どうなの?


「いや、美味しいよ。ありがとう愛花。」
そう言って優しく微笑む烏帽子。    
『あれ、そうなの?良かったー。』


ふぅ。ひとまず安心かな。だって今冷蔵庫の中の飲み物ってオレンジジュースと酒と牛乳だけだもん。酒はともかくオレンジジュースとか牛乳って偏見かもしれないけれど妖は嫌いそうだな。


「では本題に入ろう。」

烏帽子は急に真剣な顔をする。

私は息を呑んで烏帽子の言葉を待った。




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