紙のない手紙
ふと気が付くと、時刻はもう昼になっていた。











二度寝から目を覚ました俺が最初に聞いたものは、楽しそうに鳴く鳥の声でも、風にそよぐ木々のざわめきでもなかった。

















まるで犬が唸るような低くてくぐもった音を聞いた。














そして、俺はその音の音源である自分の腹に手を当てる。














どんなに、ダルくても腹は減る。













俺は緩慢な動きで服を着替えると、机に置かれている財布を取って、開いた。













小銭入れを開け、財布を左手の上で逆さまにする。













「……は…」









俺から自嘲の笑いが出る。












428円。











俺は全財産をズボンのポケットに突っ込んで、外に出た。
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