琥珀色の誘惑 ―王国編―
その後、日本語ではなくアラビア語が聞こえた。ライラらしき声も聞こえる。



すると、ラシード王子は急に姿勢を正し壁際に近づいた。

彼は掛けてあったアラビア風の短剣“ジャンビーア”を手に取る。来客用の部屋にあるものだから、単なる飾りと思っていたが……。

スッとラシード王子が抜くと、その刃は以前見たことのある本物の輝きを放った。


「おい、おま……いや、アーイシャ殿。僕は日本人が嫌いだ。母上を『国王の妾』と書いた日本の記事をインターネットで見たことがある。アルの保護を断わった日本政府も許せない。ディルまで日本に行ったきり、国と家族を捨てた。だが……」


日本の感覚から言えば、第四夫人と言われたら『愛人』のほうが想像しやすい。

だが、クアルンでは正妃ではないものの、第四夫人は王妃で国王の正妻なのだ。王族の慣例により順番は決められてはいるが、法律的には平等である。

それを理解せず、倍も歳の離れた外遊中の王子を誑し込み、妊娠を盾に妾の座を射止めた悪女――そんな風に書かれていたという。


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