琥珀色の誘惑 ―王国編―
すると、ミシュアル王子はラシード王子の前であるにも関わらず、舞を胸の中に抱き寄せた。


「無論だ。私はお前を守る為に、禁を犯して後宮に足を踏み入れた。場合によっては、血の繋がった弟を殺すつもりで、だ。しかし、ラシードがライラを妻に出来ないのは彼女のせいではない。この国で、しかも王族の身分にある女が、自分で夫を選ぶことは許されない。ライラが私に執心するのはマッダーフの意向があるからだ」


前半に言葉が舞の耳に鳴り響き、後半を聞き流したとしても……仕方がないだろう。


「ね、アル。アーイシャって……月瀬舞の名前は全然なくなっちゃうの?」
 

一瞬、ミシュアル王子は返答に詰まった。

だが、


「許せ。イスラムの決まりで、姓名ともアッラーより与えられる。母上も酷く悲しんだと聞き、伝えるタイミングを逃したのだ」

「“最愛の妻”って意味があるのは本当?」

「預言者ムハンマドが唯一娶った初婚の妻がアーイシャという。他の妻は全て寡婦だった。クアルンでは最も好まれる女性名だ」

「わたし以外の妻も持つの? ライラとか」

「私にアッラーの誓いを破らせる気か?」


< 125 / 507 >

この作品をシェア

pagetop