琥珀色の誘惑 ―王国編―
「ちょ……ちょっと? ア……ル、ここじゃ」


舞の制止に琥珀色の瞳を潤ませ、ミシュアル王子は哀しげな表情で口を開いた。


「舞、正直な想いを中々口にしないのは、日本人の国民性であろう。私はそんなお前を理解しているつもりだ。陛下や母上も目を瞑って下さるだろう。だが、シドは予想以上にライラの虜だ。奴の前で、私から立ち去るようなことを口にしてはならぬ」

「ひょっとして……少し、本気にしたの?」


ライラと結婚すればいい――信じられないが、その言葉にミシュアル王子は傷ついた様子であった。


「私はいつも本気だ」

「ゴメンね、アル。でも、信じてるから……わたしだけを愛してくれるって。妻は生涯わたしだけだって、そう言ってくれたアルを信じてる」


ミシュアル王子の手が両方とも背中に回り、舞を抱き締めた。舞も彼の背中に手を回し、ギュッと抱きつく。祈りの間でなんて不謹慎な、という理性には目隠しをして考えないフリをした。



「ヌール様も、誰にも聞かれない時は“マイ”って呼んで下さるの。だから、アルもそうしてくれる? ひょっとしてそうしてくれてた?」

「そうだ。シャムスらに“お妃様”と呼ばせたのはアーイシャの名前だと驚くと思ったからだ。ふたりの時は……お前は舞だ」


舞はミシュアル王子の厚い胸板から頬を離し、彼の顔を見上げた。


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