琥珀色の誘惑 ―王国編―
ミシュアル王子はそんな従兄を教訓にしている。女性を近づけることに神経質なほど気を配ってきたのもそのせいだ。

他にも、初等教育は家庭教師に学び、学位も全て二十歳までにクアルンで取った。その後は三年間の軍役を経験し、戦車にも乗り、戦闘機の操縦も出来るらしい。

彼が王太子になったのはちょうど軍に所属していた頃だと言うが……。

その軍役に入る直前、ミシュアル王子には空白の一年間があった。



「マフムード王子が事故で亡くなられた時、殿下は殺人を疑われ、投獄されかかったのです」

「嘘……アルがそんなことするわけないじゃない! 誰がそんなこと言ったのよ!」


カッとなった舞にヤイーシュが告げたのは、信じられない名前だった。


「――アサド前国王です」



アサド前国王は、エーゲ海でヨットの転覆により事故死したマフムード王子を殺人と決め付けた。そして、息子を殺したのは弟のカイサル国王とミシュアル王子に違いない、と言い出したのだ。

カイサル国王はアサド前国王の異母弟。そして、カイサル国王の生母の出身は、クアルン国軍を束ねる重鎮の一族。彼らはマフムード王子の排斥を望む、いわゆる“王弟派”であった。

そのため、内戦を避けたい他の王族は、ミシュアル王子ひとりに罪を擦り付けようとした。後ろ盾のないミシュアル王子は命を狙われ、砂漠で一年あまりを過ごしたという。


その間、母の母国である日本に避難しようという意見もあったが――日本政府は受け入れを拒否する。


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