琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞の漆黒の瞳からポロポロと涙が零れた。

日本のホテルでベッドに押し倒された時のように、次から次へと涙が溢れ出してくる。まるで壊れた蛇口のようだ。

ミシュアル王子は手を伸ばして涙を拭おうとした。

だが、それは舞により振り払われる。



「日本に……帰りたい」

「駄目だ。許さん」

「もう一度、考えさせて……お願い」

「駄目だと言ってる。陛下の譲位と即位の儀式が決定済みなのだ。動かすことは出来ぬ」

「どうして? 即位の儀式ってわたしに出番は無いんでしょ? だったら」

「駄目なのだ! その前に結婚の儀式を――」


そう言った瞬間、ミシュアル王子は舞から視線を逸らせた。

幾ら鈍い舞でも、その言葉の意味はすぐに思い当たる。


国王は正妃を娶るのが義務――ヌール妃はそう言っていた。でもおそらく、即位の時は妻さえいればいいのではないか? だから、舞との結婚を急いだ。国王陛下の体調が悪いから、王太子の彼は一日も早く結婚したかった!


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