琥珀色の誘惑 ―王国編―
三日月の前夜、ちょうど薄い線のような月が昇る頃――。


『では、ハディージャがアーイシャに話したのだな。いや……ヌール様のせいではないとお伝えしてくれ』


ミシュアル王子は相手が切ったのを確認し、受話器を電話機本体に叩き付けた。

王太子の宮殿奥に位置する後宮から、宮殿内の執務室に戻り、ミシュアル王子は王宮の部下に連絡を取る。

待つこと二時間――。

事情はヌール妃付きの女官からすぐに聞けたという。だが、この報告を受けたミシュアル王子の機嫌は最悪だった。


『殿下。やはり箝口令など敷かず、事前にお伝えしたほうがよろしかったのでは?』


ターヒルは『だから言ったはずだ』と言わんばかりの顔でミシュアル王子を見る。


『……二度と見たくなかったのだ、舞の涙を。マッダーフを説き伏せ、長老会議の承認を得て、舞を正妃にするつもりであった。時間は掛かっても、何も気付かぬうちに、全てを整えるつもりだったのだ!』


ミシュアル王子はマホガニーの天板に拳を叩き付けた。

どっしりとした一枚板の書物机は微かに揺らぎ、古いオーク材の木枠が抗議の悲鳴を上げる。


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