琥珀色の誘惑 ―王国編―
そこは一般の会社で言うなら、従業員用の通用口と同じ用途で使われていた。

後宮という性質上、入る時は金属探知機を潜らされ、手荷物検査や身体検査まであり厳重チェックされる。

しかし、出る時はそれほどでもない。

かつては捕えて来た姫君の逃亡を防ぐ、という目的から厳しかったようだ。

しかし、現代においてその心配は皆無――の、はずだった。


舞を連れ出した女官は、ほんの数時間前に外出から戻ったばかりだという。

戻って来た時に、『ヌール様の御用で再び王宮に行く為、またすぐに門を通る』と言ったそうだ。『御用を果たす為にもうひとり女官が必要なのだ』と彼女は付け加えた。

事前の申し出通り、女官はもうひとりの女官を伴い出入り口までやって来た。門衛はふたりの身分証が本物であった為、そのまま通してしまったという。名前を使われた同僚は王宮内にいて、彼女の荷物から身分証が消えていた。



『殿下、これは調査の必要があると思われます』


話を聞いたターヒルが声を潜めた。

ミシュアル王子もそれに同意する。今回のことは、とても舞に同情しただけの女官が、その場で考えたとは思えぬ巧妙な方法だ。

嫌な予感が砂嵐のように、彼の胸に吹き荒れた。



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