琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞も馬鹿ではない。

“王太子の婚約者”が無断で後宮を出るなんて、ただでは済まないだろう。

それに現実問題として、クアルンから日本への直行便はなく、パスポートも飛行機代も持たず、知り合いのひとりもいないのだ。アラビア語すら話せない舞が逃げ出したところで、五分と安全では居られない。

だが、ヌール妃が味方なら話は別だ。

クブラーの話では、ヌール妃名義の別邸に舞を匿ってくれるという。

「結婚式までの一週間、ゆっくりひとりで考える時間をあげましょう」なんて言われたら、舞は一も二もなく飛びついた。 


首都ダリャ市から南下すること丸一日。約八百キロ近くを移動したと思われる。

車の後部座席に座りっぱなしで、お尻も背中もバキバキだ。休憩を入れたらミシュアル王子に捕まる可能性が高い、と言われは舞も我慢するしかない。


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