琥珀色の誘惑 ―王国編―
(落ち着こう。まずは落ち着いて、冷静に考えよう)


舞は自室には戻らず、クブラーが電話をしていた部屋からも遠ざかって、懸命に頭を働かせた。

舞の手にはライラにそっくりな女性が写った写真がある。そして、クブラーは電話の相手をライラと呼んだ。しかも話の内容は……思い出せば出すほど、舞は背筋がゾッとした。

ライラとは“あのライラ”に違いない。

こんな所まで連れて来たということは、彼女は本気なのだ。

クブラーが日本語を使っていたのも、他の使用人たちにはわからなくするため。このままでは、正体不明の外国人として……。


(こっ、殺されるのっ?)


電話でミシュアル王子に連絡を、と思ったけれど番号がわからない。それに、助けを求めるようなアラビア語も話せなかった。

シャムスはイスラム万能の挨拶『アッ・サラームアライクム(あなた方に平安あれ)』を教えてくれたが……。

このピンチでは役に立たない!


どうしよう、と思った舞の目に一台の車が映った。

それは一昨日、舞が乗って来た車“トヨタのクラウン”である。かなり古い車のようだが、エンジンは掛かったままだ。

ここは砂漠に近いとはいえ、かなり大きな町に思える。

そこに、外国人女性がフラフラひとりでいたら、警察に連れて行かれるんじゃないだろうか?

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