琥珀色の誘惑 ―王国編―
そこで、『アナーヤーバーニーユン(わたしは日本人よ)』と言えば、日本大使館に連絡して貰えるかも知れない。

ひょっとしたら、それ以前にミシュアル王子が警察に何か命令しているかも知れないし……。


そんなことを考えながら、舞が車に近づいた時だった。


「アーイシャ様! そのような場所で何をなさっておられます!?」


背後に聞こえるクブラーの声に、舞は車のドアを開いた。

だが、一昨日の運転手がそこに座っている。舞より少し年上くらいの青年だがクアルン人ではないらしい。

運転手は舞に姿を見て、目を丸くした。

それもそのはず……。屋敷内を散歩するだけのつもりだった舞は普段着のままだ。カラフルな麻のロングスカートとオフホワイトの五分袖チュニックを着ているだけ……アバヤもヒジャブもない。


「ちょっと! どいてっ!」


素顔の若い女性……しかもクアルン基準では、素晴らしいボディラインをした異国の美女に、怒鳴られたのだ。

運転手は慌てふためき、車から転げ落ちた。


「アーイシャ様っ! お待ちください!」


ライラとつるんでいる女官に、止まれと言われて止まるわけがない。

車の免許は当然持っている。舞はガレージのような場所を飛び出し、公道に出ると一気にアクセルを踏んだ。


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