琥珀色の誘惑 ―王国編―
なんと、王子はスタスタと壁まで歩き、ジャンビーアを手に取ったのだ。華美な装飾が施された鞘から、三日月に反り返った白刃を抜く。

ミシュアル王子はその切っ先を、ライラの細い喉元に突きつけた。


『電話の相手が使用人の娘に対して「アーイシャ様」と敬称を付けた理由を答えよ』

『……』

『もう一度尋ねる。この者の居所は?』


緊迫した空気が大広間に流れた。誰かがゴクリと息を飲み、ミシュアル王子とライラ、双方のこめかみに冷たい汗が伝う。

しかし――それでもライラは口を固く閉ざしたままであった。

ミシュアル王子は真正面からライラを見据え、低く押し殺した声で告げた。


『わかった。では、言い残したい言葉はあるか?』

『――殿下っ』


クアルンにおいて、王族に対する処罰は限りなく甘い。政治・軍事の中枢を占めるのだから当然といえば、当然だ。

王族は石油の齎す富の九割を占有してきた。ミシュアル王子は、それを国民に還元するため奔走している。だがそんな行動に不満を唱え、全部が王族の物だと言う年寄りや、もっと寄越せという有力部族に挟まれ――彼も辛い立場であった。

そんな中、ハルビー家の王女腹の姫君をミシュアル王子自らが手に掛けたとあっては、とんでもない騒ぎになるのは間違いない。


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