琥珀色の誘惑 ―王国編―
(え? えぇっ? 嘘っ!?)


どれほど目を凝らしても、舞が期待したタイヤの跡など何処にもない。

土の道路や砂浜を歩くと、普通は跡が残る。だが、砂漠は絶えず風が吹いていた。車の周囲を歩き回る舞の足跡すら、見る間に消されて行くのだ。

少しでも高いところに上がって見てみよう。舞は車の屋根に上ることを思いつく。そして、どうせ誰も見ていないのだから、と、舞はロングスカートの裾をたくし上げて腰で縛った。

長くスッキリした脚を惜しげもなく披露し、舞は車のタイヤに足を掛ける。

ギッと鈍い音がしてタイヤが少し砂にめり込み、車全体が傾いだ。トランクの上に足跡を付けながら、舞はクラウンの屋根に立った。

三メートル強の高さから周囲を三六〇度見回すが……砂ばかりだ。

しかし、一つの方向に岩場のようなものが見える。せめてそこまで行ってみよう。舞は下に飛び降りると、車に乗りエンジンを掛けた。



岩場の直前で車はスローダウンし、やがて、ウンともスンとも言わなくなった。

燃料メーターが下に振り切っており……要するにガス欠である。

舞は車を降り、徒歩で岩場を目指すことにした。


スポーツ選手ほどじゃない。でも、二十歳の日本人女性平均以上の体力はあるつもりだ。なのに、ほんのすぐそこに見える岩場が、恐ろしく遠い。歩いても、歩いても辿り着けない。


(ひょっとして……これが有名な“砂漠の蜃気楼”ってヤツ?)


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