琥珀色の誘惑 ―王国編―
いい加減、舞も自分の置かれた状況に危険なものを感じ始めた時、目の端に動くものを捉えた。

岩場の近くに馬が見える。遠目には良くわからないが、どうやら鞍が付いているようだ。

馬がいるってことは、それに乗ってきた人もいるはず。


『アッ・サラームアライクム(あなた方に平安あれ)』

『アナーヤーバーニーユン(わたしは日本人よ)』

『ヘルプ・ミー!』


最後はアラビア語ではないが、とりあえずコレで行ってみようと舞は心に決める。

徐々に、サクサクと砂を踏みつける足も早くなり……人影が見えた瞬間、舞より先に向こうが彼女を指差した。


それは、舞がクアルンに来て初めて見かける服装だった。

男性は白と思っていたのに、彼らは暗い色のトーブを着ていた。そして濃いブルーのターバンを巻き、口元まで覆い隠している。その姿は、まるで顔を隠す盗賊のような……。

男たちは岩の陰からわらわら出て来て、全部で十人以上になった。口々に何かを叫び、次第に舞に近づいてくる。

そして、彼らの腰にはジャンビーアが吊るされていた。宮殿で見掛けた華やかな物とは違い、実用第一の作りに見える。


舞は恐ろしくなり……車に閉じ籠もろうと身を翻した。


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