琥珀色の誘惑 ―王国編―
ベドウィンのアル=バドル一族は、この広大なアブル砂漠の縁を移動する遊牧民族だ。

アラブ全体の国策もあって、ここ最近では多くのベドウィンが一つの町に定住するようになっている。そんな中でアル=バドル一族はいまだにテントを張り、ヒツジやヤギ、場合によってはラクダの遊牧を行う。

彼らは伝統的に青のトーブに身を包み、頭にも青いターバンを巻く。成人男子の全てがジャンビーアを帯剣し、強さによって正当性を主張する部族であった。



ヤイーシュと舞の乗る馬から、一馬身ほど空けてついて来る彼らが、アル=バドル一族の男たちらしい。

彼らは、舞の姿を幻だと思った。

やがて、本物の女性だと気付き……捕まえようとしたのだ。

何でも、掟により最初に捕まえた男性の所有物とされるらしい。ヤイーシュが血相を変えて、最初に抱き上げたはずである。 

舞はヤイーシュから水を分けてもらい、ようやく人心地ついた。

これから、アル=バドル一族のテントに向かうという。


「ねえ、ヤイーシュ。顔を隠したほうがいいかな?」

「我が部族で顔を隠すのは男です。女は特に必要ありません。ですが……」


ヤイーシュは少し言い難そうに続けた。


< 206 / 507 >

この作品をシェア

pagetop